芽吹きの春のぶどう畑(イメージ)
※イメージ(AIで作成)

ワインの味わいは、畑から始まる

ワインは、ぶどうの果汁をそのまま発酵させて造るお酒です。日本酒のように、でんぷんを糖に変える工程がありません。そのぶん、どんなぶどうが実ったかが、味わいに表れやすいお酒です。

このページでは、ぶどうの木のつくりから、1年の育ち方、気候や土とのかかわり、造り手の畑しごと、そして収穫までをご紹介します。

ぶどうの木のつくり

ぶどうは、つる性の木です。何年も残る幹と腕から、毎年新しい枝(新梢/しんしょう)が伸び、葉を広げ、房をつけます。房は、新しい枝の3〜4枚目の葉の向かい側につくことが多いです。

ひと粒のぶどうは、大きく3つの部分でできています。

部分主に含まれるものワインへの表れ方
果皮(皮)色のもと、渋み(タンニン)、香りのもと赤ワインの色と渋み、品種らしい香り
果肉水分、糖、酸アルコールのもとになる甘さと、酸味
種渋み(タンニン)赤ワインの渋みの一部
ひと粒のぶどうのつくり
  • 果皮(皮)色のもと・渋み・香りのもと
  • 果肉水分・糖・酸
  • 種渋み(タンニン)

種ではなく、枝で増やす

ぶどうは、ふつう種からではなく、枝を挿したり接いだりして増やします。こうして増やした木は、もとの木とまったく同じ性質を受けつぎます。

  • クローン:ひとつの系統を選び、病気(ウイルス)がないかを調べたうえで増やしたもの。フランスでは1960年代から、品種ごとに多くのクローンが選ばれてきました。
  • マサル・セレクション:畑の中から良い木を何本も選び、その枝を増やす方法。古い畑のぶどうの木を受けつぎたいときに使われます。

ぶどうの1年

時期ぶどうのようす畑しごと
冬葉を落として休む(休眠)剪定(せんてい)。残す枝と芽を決める
春ためておいた養分で芽が動き出し、新しい枝が勢いよく伸びる芽かき、霜への備え
初夏芽吹きから数週間後に花が咲き、小さな実がつく病気への備え、枝の手入れ
夏実がついて5〜7週間ほどで、実がやわらかくなり、色づき始める(ヴェレゾン)葉の手入れ
夏の終わり〜秋4〜6週間ほどかけて熟す。糖・色・香りが増え、酸が減る熟し具合を見て収穫
収穫後葉が光合成を続け、養分を根や幹にためてから落葉—

花の時期の天気は大切です。暖かく乾いていれば花は1〜2日で終わりますが、涼しく雨が続くと、1か月ほど長引くこともあります。また、来年実をつける芽のもとは、この年の開花のころに、もう芽の中で作られ始めています。今年の天気が、来年の収穫にまで影響するのです。

「熟した」とは、どういうこと?

ぶどうが熟すと、糖が増えて酸が減り、皮の色や香りが育ちます。ただし、これらは同じ速さで進むわけではありません。甘さは十分でも、香りや渋みはまだ若い、ということもあります。

オーストラリアの畑で行われた研究では、一粒あたりの糖の量に注目しました。粒に糖が運び込まれるのが止まったあとも、果汁の糖度の数字は上がり続けることがあります。これは、粒の水分が抜けて濃くなるためです。そして、糖が止まってから早めに摘むと、赤い果実のようなフレッシュな香りのワインに、遅めに摘むと、黒い果実やプラムのような、より熟した香りで渋みもしっかりしたワインになりやすいことが分かりました。

いつ摘むかは、造り手が「どんなワインにしたいか」を決める、大切な選択のひとつです。

いつ摘むかで、香りが変わる粒に糖が運び込まれるのが止まったあと
  • 早めに摘むと赤い果実のような、フレッシュな香りのワインに
  • 遅めに摘むと黒い果実やプラムのような、より熟した香り。渋みもしっかり

オーストラリアの畑で行われた研究から。熟すと糖が増えて酸が減り、色や香りが育ちますが、どれも同じ速さで進むわけではありません。

気候と土地

ぶどうの育ち方は、気温、日の光、雨の量に大きく左右されます。同じ地域でも、標高、斜面の向き、近くの川や湖、風の通り方などで、畑ごとの条件はちがってきます。そして、年ごとの天気のちがいが、ヴィンテージ(収穫年)ごとの味わいのちがいになります。

長野県は、県内のワイン産地について「日照時間が長く、昼夜の寒暖差が大きい」気候に恵まれていると紹介しています。

土と水

「土の成分がそのままワインの味になる」と思われがちですが、研究者の見方は少しちがいます。土の中の特定の栄養分の量と、ワインの品質とのあいだに、はっきりした関係は見つかっていません。土の大きな役割は、ぶどうの木に水と窒素(ちっそ)をどれだけ与えるか、そして土の温まりやすさだと考えられています。

ボルドーの研究者たちの調査では、水が少し足りないくらいの畑で、赤ワイン用のぶどうの質が上がることが示されました。

  • 枝の伸びが早めに止まり、養分が実に回る
  • 粒が大きくなりすぎない
  • 皮の色のもと(アントシアニン)が増え、糖も、水の不足が軽いときにいちばん多くなる

ただし、水不足が強すぎると、かえって質は下がります。ボルドーでは、年ごとのワインの出来ばえは、気温よりも、夏の水不足の強さに大きく左右されていました。

テロワールとは

ワインの話でよく聞く「テロワール」は、フランス語の言葉です。国際ブドウ・ワイン機構(OIV)は2010年に、その意味をまとめています。おおまかにいうと、ある土地の自然の条件(土、地形、気候、景観、生きものの多様さ)と、そこで行われてきたぶどう栽培・ワイン造りのやり方との結びつきについて、人びとが知恵を積み重ねてきた場所のことで、そこから生まれる産物に、ほかにはない特徴を与えるもの、とされています。

ポイントは、土や気候だけでなく、そこで働く人たちの知恵や工夫もテロワールに含まれていることです。

苗木と台木 フィロキセラの話

19世紀、ヨーロッパのぶどう畑は、フィロキセラという小さな虫に襲われました。フランスでは1863年に南東部のロックモールで初めて見つかり、北アメリカから植物と一緒に持ち込まれたと考えられています。根を傷めるこの虫によって、フランスのぶどう畑の半分が失われました。

畑を救ったのは、フィロキセラに強いアメリカ生まれのぶどうを「台木(だいぎ)」にして、その上にヨーロッパの品種を接ぐ方法でした。ボルドーでは研究者が、アメリカのぶどうがどれほどフィロキセラに強いかを調べ、石灰の多い土にも合う台木を生み出していきました。フィロキセラの害は、いまもこうした台木によって抑えられています。

冬のぶどう畑で剪定する人(イメージ)
※イメージ(AIで作成)

仕立てと剪定

冬の剪定

冬の剪定では、どの枝を何本、芽をいくつ残すかを決めます。残した芽の数が、次の年の枝と房の数の目安になります。

  • 短く切る剪定:短い枝を何か所にも残すやり方。フランスの「コルドン・ド・ロワイヤ」など。
  • 長い枝を残す剪定:長い枝を1〜2本残して横に寝かせるやり方。フランスの「ギヨ」など。

フランスのAOC(原産地呼称)では、こうした剪定のやり方や1本に残す芽の数、植える本数まで決められていることがあります。たとえばロワール地方のコトー・デュ・ジェノワでは、1ヘクタールに5,700本以上を植え、枝を針金に沿わせて仕立てることが決められています。

垣根仕立てと棚仕立て

仕立て方どんな形か特徴
垣根(かきね)仕立て針金を張った列に沿って、枝を上に向けて並べる世界のワイン用ぶどうで広く使われる。平らな土地やゆるやかな斜面なら機械を入れやすい
棚(たな)仕立て頭の上の高さに張った棚に、枝を横に広げる日本では一般的。収穫量は多めで、収穫は手作業になる

日本の棚の高さは、1.8メートルくらいが一般的です。山梨県で古くから工夫されてきた「甲州式ぶどう棚」は、葉や実を地面から離して風通しをよくし、病気を抑えるのに役立ちます。山梨県では、この棚でワイン用のぶどうも多く育てられています。

信州でも、畑によって仕立て方はさまざまです。長野県果樹試験場は、今ある平らな棚を使い、枝を片側だけに伸ばす短い剪定でメルローを育てる方法を紹介しています(2016年)。普通の棚の仕立てよりも、ぶどうの糖度や皮の色が高くなったと報告されています。一方で、佐久市の試験栽培のように、標高700メートルほどの畑で、垣根仕立てでヨーロッパ系の品種を育てる例もあります。

垣根仕立てと棚仕立て
  • 垣根仕立て針金を張った列に沿って、枝を上に向けて並べる。世界で広く使われる
  • 棚仕立て頭の上の高さの棚に、枝を横に広げる。日本では一般的で、収穫は手作業

夏の手入れ

春から夏にかけての手入れは、病気を防ぎ、ぶどうを健やかに熟させるための大切な仕事です。

  • 芽かき:いらない芽や枝を早めに取ります。葉が込み合わず、風通しがよくなります。また、株元から出る枝を取ると、べと病の最初の感染を遅らせるのに役立ちます。
  • 除葉(じょよう):房のまわりの葉を取り、房に風と光を当てます。灰色かび病などを防ぐのに役立ちます。ただし取りすぎると、強い日差しで実が日焼けするため、午後の西日が当たる側は残すなどの工夫をします。

房によく日が当たると、ピーマンのような青い香りが少なくなることも知られています(くわしくは ワインの味の「もと」をたどる のページへ)。

病気と天気

病気どんな病気か
べと病北アメリカから19世紀の終わりにヨーロッパへ入った病気。梅雨や秋雨のころに一気に広がる。ヨーロッパ系の品種は特にかかりやすい
うどんこ病北アメリカから1845年にイギリスへ入った病気。風通しの悪い畑で出やすく、春に日照時間の長い年ほど多くなる傾向がある
灰色かび病涼しく湿った天気で出やすい。ただ、条件がそろうと、甘口ワインのもとになる「貴腐(きふ)」になることもある(くわしくは 甘口ワイン のページへ)
晩腐病(ばんぷびょう)雨のしずくで胞子が運ばれ、色づいたころから実が腐る。雨の多い日本では、最もおそろしいぶどうの病気のひとつとされる

べと病に対しては、1880年代にボルドーで、銅を使う「ボルドー液」が生まれました。畑の道沿いのぶどうにかけた銅の液が、病気を防いでいたことに気づいたのが始まりです。

雨の多い日本での工夫

雨の多い日本では、ぶどうの栽培は病気との知恵くらべです。

  • 棚で地面から離す:風通しをよくし、病気を抑えます。
  • 雨よけ:山梨県果樹試験場は、標高710メートルの畑で、ワイン用ぶどうの上に簡単なビニールの屋根をかける試験を行いました。病気が減り、選別で捨てる実の割合が下がりました。島根県には、垣根仕立てにビニールをかぶせて雨を防ぐワイナリーもあります。
  • 房に袋や傘をかける:雨のしずくから房を守ります。

春の霜も心配のひとつです。長野県では、春の農作業が始まるころに、霜の被害(凍霜害)への注意が県全体に呼びかけられています。

減農薬・サステナブル・有機・ビオディナミのちがい

呼び方どんな考え方か
減農薬・サステナブル農薬をなるべく減らし、環境に配慮する。国や団体ごとに、さまざまな認証がある。たとえばフランスの国の「HVE(高い環境価値)」認証は、生きものの多様さ、病害虫対策、肥料、水の使い方の4つの点で農場を審査する
有機(オーガニック)合成の農薬や化学肥料に頼らない。法律で決まりがあり、認証を受ける
ビオディナミ有機の考え方に加えて、農場をひとつの生きもののようにとらえ、独自の調合剤を使う。民間団体の認証がある
畑の考え方のちがい
減農薬・サステナブル農薬をなるべく減らし、環境に配慮
有機(オーガニック)合成の農薬や化学肥料に頼らない。法律の決まりと認証
ビオディナミ有機に加えて、農場をひとつの生きもののようにとらえる

有機ワインの決まり

EUでは、ぶどうのような木の作物は、有機のやり方で3年以上育ててから、ようやく「有機」として収穫できます。2012年からは、畑だけでなく醸造にも有機ワインの決まりができ、使える添加物が限られ、酸化防止剤(亜硫酸)の量も、ふつうのワインより少なくすることになっています。なお、べと病を防ぐ銅は有機栽培でも使えますが、EUでは使う量に上限(1ヘクタールあたり7年間で28kgまで)が決められています。

日本では、2022年10月から、お酒も「有機JAS」の対象になりました。経過期間が2025年9月末で終わり、いまでは、ワインに「有機」「オーガニック」と書くには、有機JASマークを付ける必要があります。輸入ワインも同じです。

ビオディナミ

ビオディナミは、1924年のルドルフ・シュタイナーの講義から生まれた農法です。牛の角に牛ふんを詰めて寝かせ、水に溶いて土にまく「500番」、牛の角にケイ石(シリカ)の粉を詰めて寝かせ、葉にまく「501番」、薬草から作り、堆肥に加える「502〜507番」といった調合剤を使います。認証団体のデメテールでは、これらの調合剤を使うことが義務です。また、月や星座の動きをもとにした暦を参考に、作業の日を選ぶ造り手もいます。

店では、有機栽培やビオディナミで育てたぶどうから造ったワインもお取り扱いしています。

手摘みのぶどうの収穫(イメージ)
※イメージ(AIで作成)

収穫

いつ摘むか

造り手は、糖度、酸の量、pH(酸の強さの目安)を測り、実を食べて香りや皮の様子を確かめながら、摘む日を決めます。早すぎれば酸っぱく香りの乏しいワインに、遅すぎれば病気や鳥・虫の被害を受けやすくなります。

手で摘むか、機械で摘むか

  • 手摘み:房をまるごと、傷つけずに摘めます。傷んだ房を畑で選り分けることもできます。シャンパーニュはすべて手摘みで、フランスの「クレマン」も手摘みのぶどうを使う決まりです。ソーテルヌの貴腐ワインでは、貴腐のついた粒を選んで、何回にも分けて摘み取ります。
  • 機械摘み:垣根の列に沿って進みながら木をゆすり、粒を房から落として集めます。広い畑を短い時間で摘めます。棚仕立てでは、収穫は手作業になります。
このページの出典(参考にした資料 40件)

このページは、国や公的機関、業界団体、造り手、研究機関などの資料で確かめたことをもとに、店の言葉でまとめています。リンク先は2026年10月に確かめたもので、その後に移ったり変わったりしていることがあります。外国語の資料もあります。

  1. eXtension grapes.extension.org
  2. IFV vignevin.com
  3. ives-technicalreviews.eu
  4. 長野県 信州ワインバレー構想2.0 pref.nagano.lg.jp
  5. frontiersin.org
  6. oeno-one.eu
  7. OIV 決議 OIV/VITI 333/2010 oiv.int
  8. INRAE AgroMots inrae.fr
  9. INRAE プレスリリース inrae.fr
  10. INRAE ボルドー「Vie de Millardet」 sante-agroecologie-vignoble.bordeaux-aquitaine.hub.inrae.fr
  11. INAO コトー・デュ・ジェノワ仕様書 extranet.inao.gouv.fr
  12. 山梨県 pref.yamanashi.jp
  13. 農林水産省 aff 2021年1月号 maff.go.jp
  14. 長野県果樹試験場「片側誘引短梢せん定栽培」 pref.nagano.lg.jp
  15. 佐久市 city.saku.nagano.jp
  16. DRAAF グラン・テスト draaf.grand-est.agriculture.gouv.fr
  17. oajournals.fupress.net
  18. 福井県 病害虫防除指針 pref.fukui.lg.jp
  19. INRAE ephytia ephytia.inrae.fr
  20. 島根県 pref.shimane.lg.jp
  21. 山梨県果樹試験場 成果情報 pref.yamanashi.jp
  22. 農研機構 生研支援センター 研究課題 naro.go.jp
  23. 長野県 2026年3月12日 プレスリリース pref.nagano.lg.jp
  24. DRAAF ヌーヴェル・アキテーヌ draaf.nouvelle-aquitaine.agriculture.gouv.fr
  25. 規則 (EU) 2018/848 附属書II 第I部 1.7.1 legislation.gov.uk
  26. 欧州委員会 agriculture.ec.europa.eu
  27. 委員会実施規則 (EU) No 203/2012 legislation.gov.uk
  28. 委員会実施規則 (EU) 2018/1981 legislation.gov.uk
  29. 農林水産省 maff.go.jp
  30. 国税庁 nta.go.jp
  31. 輸入者向け資料 nta.go.jp
  32. 英・米・豪・NZとの有機酒類の同等性 maff.go.jp
  33. Demeter International demeter.net
  34. demeter.net
  35. 英国バイオダイナミック協会 biodynamic.org.uk
  36. ウィスコンシン大学エクステンション A4154 cropsandsoils.extension.wisc.edu
  37. 農業省 Cemagref 農業機械安全シート agriculture.gouv.fr
  38. eXtension「Basic Grape Berry Structure」 grapes.extension.org
  39. フランス元老院 書面質問への政府答弁 senat.fr
  40. EUの認証を受けた有機酒類は2025年5月16日から JAS制度で「有機」表示可 maff.go.jp

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