グラスのワインの色を見る(イメージ)
※イメージ(AIで作成)

ボルドー大学の「利き酒」講座、DUAD

フランスのボルドー大学には、DUAD(ワインの利き酒適性 大学免状)という講座があります。1974年に、醸造学者のエミール・ペイノーが始めました。ワインの香りや味を「なんとなく」ではなく、どこから来たのかを成分と造り方に結びつけて説明できるようになるための講座です。

学ぶことは、次の4つの段階に分かれています。

  1. 感じたことを、ふさわしい言葉で表す
  2. 発酵が、香りと味にどう表れるかを見分ける
  3. 造り方や熟成と、味わいを結びつける
  4. その産地・品種「らしさ」(典型性)を見分けて表す

週2回、講義と利き酒の実習を組み合わせて、1年度をかけて学びます。段階ごとに試験があり、筆記だけでなく利き酒の試験でも合格点をとらないと、免状は受けられません。

当店の四代目 塩澤 悠は、2020年にこの講座を修了し、免状を受けました。

ふだん何気なく口にしている「美味しい」という言葉。DUADでは、その一言をいくつもの要素に分けて捉え、なぜそう感じるのかを、仕組みや原因までひとつずつたどっていきました。テイスターとして、本当に有意義で贅沢な時間でした。この学びを、これからのワイン選びにずっと生かしていきたいと思います。(四代目 塩澤 悠)

このページでは、DUAD で学ぶことの中から、ワインを選ぶとき・飲むときに役立つことをご紹介します。

利き酒は「見る、かぐ、口に含む」の順で

利き酒の3つの順番
  1. 見る色や透明感をよく見る
  2. かぐまず回さずに、次に回してもう一度
  3. 口に含む数秒、口じゅうに行き渡らせる

香りは、口の奥から鼻へ

口に含んだワインの香りは、吐く息にのって、口の奥から鼻へ抜けて感じられます。ワインとワインのあいだは、少なくとも2分あけるのがすすめられています(OIVの手引き)。

  1. 見る:色や透明感をよく見ます。
  2. かぐ:まずグラスを回さずにかぎ、次に回して、もう一度かぎます。
  3. 口に含む:数秒、口じゅうに行き渡らせます。

口に含んだワインの香りは、吐く息にのって、口の奥から鼻へ抜けて感じられます。鼻先でかいだときは控えめなのに、飲むと香りが豊かに広がるワインがあるのは、このためです。

感じ方には「くせ」がある

色を見ると、香りの感じ方まで変わる

ボルドー大学で、においのない色素で赤く色づけした白ワインを、醸造を学ぶ学生54人に出した実験があります。学生たちは、それを赤ワインらしい香りの言葉で表しました。目から入る情報は、香りの感じ方にも強く影響します。色やラベルの先入観をいったん外して飲むと、新しい発見があるかもしれません。

続けて飲むと、感覚は慣れて疲れる

においや味の感覚は、同じ刺激が続くとすぐに慣れてしまいます。国際ブドウ・ワイン機構(OIV)の利き酒の手引きでも、ワインとワインのあいだは少なくとも2分あけることをすすめています。渋みは、続けて飲むと積み重なって強く感じられます。

分からない香りがあっても、ふつうのこと

香りの感じ方は、人によって大きくちがいます。シラーの黒こしょうのような香りの元・ロタンドンは、ある研究で、およそ5人に1人が、とても濃くしても感じませんでした。DUAD の責任者のマルシャル教授も、「生まれつきの利き酒名人はいない。経験で身につくもの」と話しています。

味わいは「釣り合い」で決まる

ワインのおいしさは、ひとつの味の強さではなく、味どうしの釣り合いで決まります。やわらかな甘みやまろやかさと、酸味・苦み・渋みとの釣り合いを見ることが、利き酒の大切なところです。酸味や渋みは、それ自体が悪いのではなく、釣り合いが大きく崩れたときに欠点になります。

味わいは「釣り合い」で決まる
やわらかさ甘みまろやかさ
引きしめるもの酸味苦み渋み

釣り合い

酸味や渋みは、それ自体が悪いのではなく、釣り合いが大きく崩れたときに欠点になります。

渋みは「味」ではなく「さわり心地」

赤ワインを飲んだあとの、口の中がきゅっと乾くような感じが渋みです。渋みは、舌で感じる甘い・酸っぱい・苦いといった「味」とは別もので、タンニンが唾液のたんぱく質と結びつき、口の中のなめらかさが失われることで起こると考えられています。味を感じる器官のない所でも感じます。苦みは「味」、渋みは「さわり心地」。似ていますが、別のものです。熟成が進むと、渋みがやわらぐことがあります。

辛口なのに「甘い」と感じるわけ

ペイノーは、ワインの甘さにはアルコールが大きく効くと考えていました。のちにボルドー大学で確かめ直したところ、辛口ワインでふつうに見られる程度の差なら、アルコール度数を変えても甘さは直接変わりませんでした(白ワインでは、アルコールがほかの成分と合わさって苦みを感じさせることも分かりました)。

代わりに見つかったのが、次の2つです。

  • 澱(おり)から出る成分:澱と一緒に寝かせると、酵母が少しずつ分解して、甘みにかかわる小さな成分が出てきます。
  • 樽から出る成分:オーク樽から溶け出す成分の中に、甘みを持つものが見つかっています。

澱と一緒に寝かせたワインや、樽で熟成したワインがまろやかに感じられる理由の一つと考えられています。

赤ワインは、冷やしすぎないほうがいい

アメリカの大学の研究で、6種類の赤ワインを10℃・16℃・22℃で比べました。10℃と16℃では、22℃より「酸っぱい・苦い・渋い・香りが弱い」と表されました。16℃と22℃では、10℃よりベリーやスパイスの香りがよく挙がり、「甘い」という言葉も増えました。

赤ワインを冷やしすぎると、酸味や渋みが目立ち、香りが閉じて感じられやすくなります。冷蔵庫から出したてなら、少し置いてから飲むのも一つの方法です。

赤ワインの温度と感じ方アメリカの大学の研究(6種類の赤ワイン)
10℃16℃22℃22℃より「酸っぱい・苦い・渋い・香りが弱い」10℃より、ベリーやスパイスの香り、「甘い」が増えた

冷蔵庫から出したてなら、少し置いてから飲むのも一つの方法です。

果物や花など、ワインの香りのもと(イメージ)
※イメージ(AIで作成)

香りの「正体」

よく使われる香りの言葉のいくつかは、元になる成分が分かっています。

よく言われる香り元になる成分多く見られるワイン
ピーマン・青っぽさメトキシピラジンカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、ソーヴィニヨン・ブラン。房によく日が当たると少なくなり、ぶどうが熟すにつれても減っていく
グレープフルーツ・パッションフルーツ・ツゲチオールソーヴィニヨン・ブランなど。ボルドー大学の研究者が、香りの正体としてワインの中から突き止めた。ぶどうの中では香りのない形で、発酵のときに酵母が香りに変える
黒こしょうロタンドン涼しい産地のシラー(シラーズ)
ミントピペリトン(元のひとつ)熟成したボルドー(特にメドックなどの左岸)
ココナッツ・バニラ・クローブ・燻した香り樽のラクトン、バニリン、オイゲノール、グアイアコール樽で熟成したワイン

「フルーティー」は香りの足し算と引き算

赤ワインの果実の香りは、一つひとつではほとんど感じられない量の成分が重なって生まれます。反対に、バターのような香りの成分や酢の成分は、気づかないほど少しでも、合わさると新鮮な果実の香りを弱めることがあります。

造り方は、グラスに表れる

  • マロラクティック発酵:乳酸菌が、ぶどうのリンゴ酸を、よりおだやかな乳酸に変える発酵です。酸味がまろやかになり、バターのような香りが出ることがあります。少しなら複雑さになりますが、強すぎると新鮮な果実の香りを隠すこともあります。赤ワインの多くで行われ、白ワインや泡のワインでは一部で行われます。
  • 澱と一緒に寝かせる:口当たりがやわらかくなり、ほんのり甘く感じることがあります。酵母から出る成分には、渋みの一部をやわらげるはたらきも報告されています。
  • 樽で熟成させる:樽の内側の焼き具合で香りが変わり、焼きが軽いとトーストやバニラ、中くらいで燻した香りやスパイス、強いと焦げた香りが目立ちます。新しい樽ほど香りがよく移り、何度も使った樽からは、ほとんど香りが出なくなります。アメリカ産のオーク樽は、ココナッツのような香りのもと(ウイスキーラクトン)が多いとされます。

気をつけたい香り

  • コルク臭(ブショネ):カビのような香りの元・TCA は、においを感じる細胞のはたらきそのものを、ごくわずかな量で弱めることが、大阪大学などの研究グループの研究で示されました。「いつもより香りが弱い」と感じたときも、ブショネの可能性があります。
  • 馬小屋・絆創膏のような香り:ブレタノマイセスという酵母が作る成分によるものです。多いと果実味が弱まり、乾いた金属のような後味になります。
  • お酢・除光液のような香り:お酢のような香りは酢酸(揮発酸)、除光液のような香りは酢酸エチルによるものです。酢酸の量には、国際ブドウ・ワイン機構(OIV)が上限を決めています。

「らしさ」と「言葉」

DUAD の最後の段階は「典型性」、つまりその産地・品種らしさを見分けることです。典型性は、ある産地・品種・造り方のワインに共通する特徴のことで、そのワインをよく知る人たちが共有しているイメージと照らし合わせて判断されます。

もうひとつ大切にしているのが、「好き・きらい」から一歩進んで、感じたことを言葉にすることです。お店でも「酸味はおだやかなほうがいい」「渋みは少なめ」のように伝えていただくと、お好みに近い1本をご案内しやすくなります。

飲みくらべのコツ

  • 同じグラスで:ワインの官能評価では、国際規格(ISO 3591)で形が決められた卵形のグラスがよく使われます。口がすぼまっていて香りが集まり、透明なので色もよく見えます。何本か比べるときは、同じ形のグラスを使うと、ちがいが分かりやすくなります。
  • 同じ温度で:温度がちがうと、同じワインでも味わいが変わって感じられます。
  • 間をあけて:続けて飲むと感覚が慣れてしまうので、1本ごとに少し間をあけます。
このページの出典(参考にした資料 29件)

このページは、国や公的機関、業界団体、造り手、研究機関などの資料で確かめたことをもとに、店の言葉でまとめています。リンク先は2026年10月に確かめたもので、その後に移ったり変わったりしていることがあります。外国語の資料もあります。

  1. ボルドー大学 ISVV コースページ formations-isvv.u-bordeaux.fr
  2. プログラム表 formations-isvv.u-bordeaux.fr
  3. 試験規則 MCC 2026/27 formations-isvv.u-bordeaux.fr
  4. 大学ニュース u-bordeaux.fr
  5. OIV「Review on sensory analysis of wine」Part III oiv.int
  6. INRA Lettre OPALINE n°7 www2.dijon.inrae.fr
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  29. ISO 3591 iso.org

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