この記事について
この記事は、いいだFMの番組「日本酒に賭けた男たちの感動とドラマ」(平成25年10月)と「酒蔵の運命を決めた一本の銘柄」(令和2年9月)で放送された内容を、文字にして復刻したものです。お話ししているのは、酒のしお澤 三代目 塩澤 賢治です。蔵や銘柄の話、受賞歴、値段などは放送当時のもので、今とは違う場合があります。あいさつや語り口も、ラジオでお話ししたときのままにしています。
ひやおろしとは
皆さんこんばんは。今月は、これから最も旬を迎える日本酒、「ひやおろし」をご紹介いたしましょう。
この季節になりますと、方々の酒屋さんで「ひやおろし入荷」の貼り紙や、のぼり旗を見かけるかと思います。ところで、「ひやおろし」とは何なのでしょうか。手っ取り早く言ってしまえば「一年の中で最も美味しい日本酒」。そして、さんまを最も美味しく食べられるお酒、とでも言いましょうか。でもそれでは簡単すぎますので、もう少しご説明いたしましょう。
「火入れ」で分かる、お酒の4つのタイプ
日本酒は、搾ったあとに「火入れ」(加熱殺菌)をする回数と時期で、大きく4つのタイプに分けられます。
- 生酒(生々):一度も火入れをしないお酒
- 生貯蔵酒:火入れをせず生のまま貯蔵し、瓶に詰めるときに一度だけ火入れするお酒
- 生詰め酒:貯蔵の前に一度だけ火入れし、瓶に詰めるときは火入れしないお酒
- 一般的なお酒:貯蔵の前と瓶詰めのとき、2度火入れするお酒
「ひやおろし」は、このうちの「生詰め」にあたります。
名前の由来
その昔、冬に搾られた新酒は、傷まないよう春先に火入れをして大桶に貯蔵されました。ひと夏を越して、外の気温と蔵の中の温度が同じくらいになった頃、2度目の火入れをしない「冷や」のまま、大桶から樽に移してお店に「卸(おろ)」したことから「冷卸(ひやおろし)」と呼ばれ、秋の酒として大切にされてきました。
今のひやおろしも、春先に一度だけ火入れをして秋まで熟成させ、出荷の前の2度目の火入れをせずに蔵を出ます。貯蔵の入れ物こそタンクや瓶に変わりましたが、中身は昔と変わりません。
夏を越して、いちばん良い状態に
日本酒は一年をかけて熟成していきますが、とくに暑い夏を越すと大きく変わります。夏のあいだに熟成が進んで味がなじみ、旨みが増して、まろやかになります。ひんやりとした蔵で夏を越したひやおろしは、穏やかで落ち着いた香りと、なめらかな口当たりが魅力。旨みののった秋の味覚とも、よく合います。
では、なぜ2度目の火入れをしないのでしょうか。
1度目の火入れは、お酒を落ち着かせて、安定して熟成させるためです。今は冷蔵の技術が進み、火入れをせずに生のまま冷やしておくこともできますが、それでは熟成が進まず、秋口に熟成の旨みが出てきません。
2度目の火入れをしないのは、熟成でできた香りと味を、そのまま届けるためです。ここが、ひやおろしの命なのです。
旬は9月から11月
ひやおろしが出回り始めるのは、9月9日の重陽の節句の頃から。ただ、本当の旬は蔵ごとのお酒の出来によって違い、10月に入ってから出荷する蔵もあります。
同じひやおろしでも、早く飲み頃になるお酒もあれば、ゆっくり熟成する大器晩成型のお酒もあり、月を追うごとに味わいが深まっていく変化も楽しめます。
(放送:平成25年10月、令和2年9月 いいだFM)
※イメージ(AIで作成)
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シリーズの続き
次回(第2回・10月23日公開予定)は、下諏訪町の「御湖鶴」です。
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