【酒蔵ものがたり】第3回 正雪 ―「東海の黒龍」⁠と呼ばれるまで

この記事について
この記事は、いいだFMの番組「日本酒に賭けた男たちの感動とドラマ」⁠で平成24年11月に放送された内容を、文字にして復刻したものです。お話ししているのは、酒のしお澤 三代目 塩澤 賢治です。蔵や銘柄の話、受賞歴、値段などは放送当時のもので、今とは違う場合があります。あいさつや語り口も、ラジオでお話ししたときのままにしています。

由比正雪の生誕地に生まれた酒

静岡県由比町。由比正雪の生誕地にちなみ、「正雪」⁠を銘柄とするのが神沢川酒造場である。素人でも見分けがつくほど、他を寄せつけない独特な味わい。それが、りんごやバナナの香味である。

今でこそ「東海の雄」⁠とうたわれるが、その昔は神沢川酒造場も楽な経営ではなかった。当時は企業存続のため、生協に頼まれて安酒に手を出したこともあった。

運命を変えた東京の地酒問屋

神沢川酒造場の運命を変えたのは、東京の地酒問屋、名酒専門の問屋であった。そこの社長は立教大学を卒業し、当時は吹けば飛ぶようなバラック造りの小さな問屋に入社した人物である。無類の愛国者で、日本酒を愛飲した彼は、黒龍をはじめ明鏡止水など、全国の名酒を探していた。灘の大手メーカーが景品付きの安酒を売るなか、細々とでも、真に美味い全国の隠れた美酒を求めて蔵巡りをしていたのである。

そんな彼が、ある日、正雪に出会う。安酒の正雪ではなく、純米の正雪である。

彼はたった一回の試飲で、正雪の計り知れない可能性を見抜いた。

「無名でも、真に美味い酒を」

「我々と、無名でも真に美味い酒を全国に分かってもらおう」。この言葉に、望月が共鳴する。黒龍をはじめ、全国の地酒名酒蔵の杜氏の指導を仰いだ。

「端麗な味わいの中にも、ふくらみのある味わいを持つ酒」。他では味わえない感動を求め、望月と社長は吟醸を追求した。

静岡といえば吟醸王国。いくつもの名醸がひしめくなか、取って代わることのできない酒質を目指した。福井の名門「黒龍」⁠と同じように、今や「東海の黒龍」⁠とまで、いや、黒龍さえ凌駕する酒質となった。あれから30年、神沢川酒造場は今や、東海屈指の名蔵へと変貌を遂げていた。

(放送:平成24年11月 いいだFM)

第3回 正雪 ―「東海の黒龍」と呼ばれるまで
※イメージ(AIで作成)

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